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英国駐在員の日々雑感


by winchesterpark
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英国に就(つい)て

本日がロンドンからお届けする英国徒然草の最終日になります。
いままでこの徒然なるブログを辛抱強く読んでいただいたみなさんありがとうございます。

ロンドンから最後の投稿ということで英国について書きたいのですが、残念ながらこの国は本当に奥が深すぎて何年赴任していてもそのものズバリを簡単に表現できないなと思っています。
それでも今回、帰任するにあったて、率直に感じてきたことをいずれも英国の画家が描いた有名な絵画2点を楽しみながら締めくくり、みなさんに英国の奥深さを感じていただければと思います。

まずは、コンスタンブルの「千草車」(1821年、ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)です。
http://www.nationalgallery.org.uk/paintings/john-constable-the-hay-wain
この絵を選んだ理由は、一緒に仕事をしてきた英国人の影響もあるのですが、彼も含めて、英国人の自然に対する畏敬の念が世界一ということを伝えたかったからです。英語で自然に対する畏敬の念はNatural pietyと表現し、これは殆ど「聖なるもの」に近い「自然への愛」を表しています。コンスタンブルの「千草車」を引き立てるために、少し休憩をとって、以下の英国人ウィリアム・ワーズワスの「虹」という詩も同時にお楽しみいただければ幸いです。
The Hay Wain(1821, John Constable)
英国に就(つい)て_b0143877_527142.jpg

The Rainbow (William Wordsworth)

My heart leaps up when I behold
A rainbow in the sky:
So was it when my life began;
So is it now I am a man;
So be it when I shall grow old,
Or let me die!
The Child is father of the Man;
I could wish my days to be
Bound each to each by natural piety.

「虹」 ウィリアム・ワーズワス

私の心は躍る、大空に
  虹がかかるのを見たときに。
幼いころもそうだった、
大人になった今もそうなのだ、
年老いた時でもそうありたい、
  でなければ、生きている意味はない!
子供は大人の父親なのだ。
願わくば、私のこれからの一日一日が、
自然の畏敬の念によって貫かれんことを!

こちらの「千草車」を眺めていると、なぜか日本人が忘れかけていた、なつかしい田園風景がよみがえってきませんでしょうか。「日本」はまもなく、世界第2位の経済大国の座を「中国」に譲ることになるでしょう。しかし人間の豊かさを測るものとしてはGDPのような経済成長率がすべてではありません。実際、ロンドンから田舎に1時間でも車を走らせると、畑や緑の草原が、なだらかな起伏をなして限りなく続きます。そこに広がる風景は、経済原理最優先の中で滅びつつある日本の田園とは比較にならないほど落ち着いた品格を持っています。美しい自然を維持するには、国民にそれだけの精神的、経済的豊かさがなければならないという点で「英国」は将来の「日本」の手本になるのではないかと感じています。

そして2枚目。ターナーの「戦艦テメレール号」(1821年、ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)です。
http://nationalgallery.org.uk/paintings/joseph-mallord-william-turner-the-fighting-temeraire
この絵もナショナル・ギャラリーに展示されていますが、いずれもコンスタンブル・ターナー二人とも同世代のイギリス人画家ということもあり、1枚目の「千草車」と同じ部屋に展示されています。ターナーの「戦艦テメレール号」は、いろいろなエピソードもあり一番好きな絵です。

「日本」と「英国」が1902年に結んだ「日英同盟」が、その後のロシアとの日本海海戦で日本海軍が当時世界最強といわれたバルチック艦隊に対して勝利を収めたことに大きく影響を与えたことは有名な話です。こちらは司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」の第8巻、「日本海海戦」を読んでいただければと思うのですが、他にもエピソードがあります。日本海軍は第1次世界大戦中も英国領マルタ島に「地中海の守り神」として、旗艦である巡洋艦「明石」と駆逐艦8隻からなる第二特務艦隊を地中海に派遣し、ドイツUボートの無差別攻撃から英国を筆頭とする連合国の輸送船の護衛を行いました。当時、残念ながら日本海軍兵の犠牲者もでたのですが、この歴史を英国人は忘れていません。マルタには旧日本海軍の軍人達が眠る立派な墓地があるのです。

そして私が以前ポーツマス(英国最大の軍港)を訪れたときのエピソードを一つ。ポーツマスの港には、過去の偉大な戦艦が停泊、展示されているのですが、その中にさらに英国海軍の歴史や模型を展示した海軍博物館があります。私が博物館の入り口を探して歩いていると、海軍の退役軍人らしい老人が、博物館の裏口から手招きして「君、日本人だろ」と言って、有料にもかかわらず、裏口からフリーで博物館の中に通してくれました。そこにはそれこそ、ネルソン総督時代から日英同盟時代に建造された戦艦の模型まで数々の戦艦が展示されており、そこにはたしか英国で建造された旗艦「三笠」の設計図みたいなものも展示されていました。感心して見入っていると、その退役軍人らしき老人は無言で軽く微笑んでいました。そこに私は、日英が同じ島国の軍人として過去、国を守り続けてきた誇りみたいなものと、同じ大きな海原と対峙する船乗りの仲間意識みたいなものを感じました。これはちょうどディーラーがマーケットと対峙するときの仲間意識と同じものなのかもしれません。

実はこの絵を紹介するのは2回目ですが、こちらの絵を締めくくりの絵として選んだのは、ポーツマスでの個人的なエピソードもあるのですが、このターナーの絵が英国人にとってかけがえのない絵だからです。ナショナル・ギャラリーに行くと、この「戦艦テメレール号」の前で長時間、眺めている英国人をよく見かけます。といいますのは、この作品にはサブタイトルがあり
「戦艦テメレール号・・1838年に解体のための最後の停泊地に曳かれていく」
と情緒詩的な雰囲気を演出しています。
1839年にこの作品がロイヤル・アカデミーで初めて展示されたとき、かつてのネルソン総督率いる「トラファルガーの戦い」で栄光の船と言われた帆船「テメレール号」が役割を終えて、いまやすっかり権威を失い、解体されるために蒸気船に曳かれていくその光景は当時の多くの英国人の心をしめつけたといわれています。帆船から蒸気船へ世代交代していく「産業革命」全盛時代の「ヴィクトリア朝時代」に描かれたものですが、今見ても、全く色あせない作品です。まるで一つの時代を創った老人(大英帝国)が若者(米国そして中国)にメッセージを送っているような、そんな余裕すら感じさせる、情緒詩的な作品です。
現在、入場料フリーですので、是非、出張や旅行でロンドンに行く機会がありましたら、この絵だけでも是非、鑑賞してください。
The Fighting Temeraire(1839, Joseph Mallord William Turner)
英国に就(つい)て_b0143877_5281136.jpg

今後「日本」が成熟した文化レベルの高い国として生き残っていくには、このような「英国」の精神的豊かさを素直に学ぶと同時に、かつては7つの海を支配していた「大英帝国」時代から得意とする「海外投資」こそが、子孫に日本の富を残していく唯一の方法かと思っています。その点で、英国は、今日、日本が抱えている問題の多くの答えを有しており、英国の歴史を深く追求すればするほどそのヒント・アイデアが生れてくれるのではないかと考えています。英国から離れてもそのような感覚を伝承していけたらと思っています。 

次回、どのような形で情報発信をできるか現時点ではわかりませんが、どこにいっても、この英国での経験をいかして、今までお世話になった人達に恩返しができればと考えています。

最後までお付き合いありがとうございます。
# by winchesterpark | 2010-04-26 05:29 | 英国紀行

TURNER AND THE MASTERS

テート・ブリテンで開催されているターナー展「TURNER AND THE MASTERS」に行ってきました。
今回のターナー展は、ターナーが1775年、コベント・ガーデンに生まれてから、1851年76歳でその生涯を閉じるまでの、彼の絵画の変遷をすべて堪能できるという贅沢な展覧会でした。

本日は、新年1月2日ということもあり、そんなに混んでいないと思いきや、世界中のターナーファンがここ、「テート・ブリテン」美術館に訪れてきていて、チケットを購入するのに行列ができていました。
■テート・ブリテン正面
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■チケット売り場
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■ターナー展入口
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ご存じのとおり、ターナーはイギリス人画家ですが、やはり当時の絵画はフランスを中心とした宗教画、オランダを中心とした風景画が世界の中心で、イギリス人画家というのはむしろマイナーな存在でありました。そんな中、ターナーはまず、徹底的に先人の絵画の模倣をしてその頭角を現します。特にフランス人画家「クロード」はその対象とされます。その後ターナーはイタリア、フランス、エジプト他いろんな国に旅に出るのですが、最も憧れていた「ローマ」や「パリ」は彼のインスピレーションをあまりあたえてはくれませんでした。しかし彼の絵画を飛躍させたのがその後に訪れた「ベニス」です。「ベニス」は水の都と言われるほど、運河に囲まれており、イギリスと違って、晴れの日が多く、空もきれいだったと言われています。ここで彼の得意とする「水」「空」の表現力を飛躍させるのです。そしてイギリスはその歴史で最も繁栄するヴィクトリア時代に突入し、まさに大航海時代の7つの海を支配した大英帝国全盛期を迎えます。ターナーの絵画の題材に「船」が多いのも、この時代的背景が重なったことが大きいといえます。

ターナーにはいろいろな絵があるのですが、私はこの「水」「空」「船」の3点を絶妙に表現した、風景画が最も素晴らしいと思っています。今回のターナー展で気に入った作品のベスト5をご紹介します。

第1位「The Grand Canal , Venice」1837年
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第2位「Bridge of Sighs, Ducal Palace and Custom-House, Venice」1833年
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第3位「Battle of Trafalgar」1805年
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第4位「Snow Storm」1842年
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第5位「Dido Building Carthage aka The Rise of the Carthaginian Empire」1815年
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番外編で、今回のターナー展には出展されませんでしたが、National Galaryに常設されている、こちら「戦艦テレメール号」も最高です。
番外1位「The Fighting Temeraire」1838年
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この作品にはサブタイトルがあり「戦艦テルメール号・・・1838年に解体のための最後の停泊地に曳かれていく」と情緒詩的な雰囲気を演出しています。1839年にこの作品がロイヤル・アカデミーで展示されたとき、かつてのネルソン総督率いる「トラファルガーの戦い」で栄光の船と言われた帆船「テルメール号」が役割を終えて、いまやすっかり権威を失い、解体されるために蒸気船に曳かれていく・・・その様子は多くのイギリス人の心をしめつけたといわれています。帆船から蒸気船へ世代交代していく「産業革命」全盛時代の「ヴィクトリア時代」に描かれたものですが、今見ても、全く色あせない作品です。まるで一つの時代を創った老人(大英帝国)が若者(米国そして中国)にメッセージを送っているような、そんな情緒詩的な作品です。
# by winchesterpark | 2010-01-02 04:35 | アート
新年あけましておめでとうございます。
毎年恒例の新年「ペン画」をご紹介します。
「Royal Opera House」
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今回は「Royal Opera House」を題材にしました。英国王立バレエ団の本拠地であり、年間を通じて、世界中のオペラ、バレエがここで開催されます。
「Royal Opera House」は「Covent Garden」の正面に位地していて、ここは「My Fair Lady」の最初のシーンで、主演であるオードリーヘップバーンが花売りをしていた場所でも有名です。

毎年、建築物を題材にスケッチして、クリスマスカードや年賀状の挿絵にしています。過去の作品はこちらです。興味のある方はどうぞ→作品集

■「Royal Opera House」の上階から眺めた「Covent Garden」
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■「Royal Opera House」
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# by winchesterpark | 2010-01-01 02:36 | アート
イギリスのヴィクトリア朝期の政治家である「ベンジャミン・ディズレーリ」Benjamin Disraeliの邸宅
「Hughenden Monor」を訪れました。
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ディズレーリはあのチャーチルやサッチャーが所属していた保守党の政治家で、1868年から1880年にイギリスの首相として活躍しました。ディズレーリが過去の首相とはかなり変わった経歴をもっているので、今でも英国中から、「Hughenden Monor」を訪れる人が堪えません。特に次の選挙で現与党の「労働党」から「保守党」復帰の声が強く、熱心に彼の残した文書を読んでいる人が多く、とても印象的でした。
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 まず、彼は英国歴代首相の中で唯一の「ユダヤ人」ということです。ただし彼は13歳の時に洗礼を受けてキリスト教徒となっています。また経歴も弁護士→株式投資家→小説家と転々とし、1826年に発表した小説『ヴィヴィアン・グレイ(Vivian Grey)』が大きな反響を受け、そこから政治家としての頭角を現します。彼は、1832年から、現在の野党である保守党から出馬しますが、4度落選し、1837年に35歳でようやく当選します。その後は3度の大蔵大臣、2度の首相と、まさに大英帝国の黄金期を支えた首相といわれています。
 中でも有名なエピソードが、「ヴィクトリア女王」との中のよさです。恋仲と言われたほど、二人の関係は親密で、王室からの絶大なる信頼を得ていました。女王は宮殿の庭先で摘んだ桜草(Primrose)を何度も、ここ、「Hughenden Monor」に贈ったというエピソードがあります。このエピソードにちなんで、彼の命日は桜草忌(Primorose Day)、保守党の党員団体は桜草連盟(Primorose League)と今でも呼ばれています。
 もう一つは、「ロスチャイルド家」とのコネクションです。スエズ運河買収(1875年)時に大蔵省時代のユダヤ人とのコネもあり、「ロスチャイルド家」から多額の資金調達を実現したことで有名です。
当時は、「大英国主義」と「小英国国主義」に世論が二つに分かれていた時代でしたが、スエズ運河買収は名実ともに「大英帝国」の発展を象徴するような、歴史的ターニングポイントと言われています。
「Hughenden Monor」から眺めた景色
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邸宅には図書室があるのですが、彼の勤勉家ぶりが手に取るようにわかるようでした。
そんな勤勉家のデイズレリーは数々の名言を残しています。

まずは、統計データの信憑性を皮肉った

“There are three kinds of lies: lies, damned lies, and statistics”
「世の中には3つの嘘がある。一つは嘘、次に大嘘。そして統計である」


そして、D・カーネギーが著書「人を動かす」の中で、大英帝国の史上最高に明敏な政治家の一人、ディズレーリのことばであるとして引用された次の名言。

「人と話をする時は、その人自身のことを話題にせよ。
そうすれば、相手は、何時間でもこちらの話を聞いてくれる」


まさに、大英帝国時代に「王室」「ユダヤ人」をも自由に操った名首相の名言です。
# by winchesterpark | 2009-08-02 21:51 | 英国紀行

今日のことば

History doesn’t repeat itself−but it rhymes.

「歴史は同じようには繰り返さないが、韻を踏む」
これはマーク・トウェインの名言です。

このクオートが経済史研究家D.H.フィッシャーの12世紀から現在にいたるまでの
世界の物価の歴史をまとめた「THE GREAT WAVES」の第一章に記されていました。
なんだかんだいって「歴史は繰り返す」という先入観があってこの本を購入したので、
この「rhymeライム(韻を踏む)」という単語を見たとき、最初は「rhythmリズム」にスペルが非常に似ているので、「リズム」そうそうこれは「サイクル」論だなと短絡的に解釈していました。
しかし「リズム」は「規則的に繰り返す」というイメージに対して
「韻」は「形を変えて繰り返す」というイメージがあることから、
「but it rhymes」つまり「歴史は韻を踏む」の部分は、
今の時代を読み解くのにぴったりのフレーズだなと思いました。
歴史には当然リズムがあります、しかし形を変えたリズムつまり韻を踏むのです。

Rhythm&Rhyme。

ディーラーつまり「時空を超えた、カネの運び屋」として、未来予測を行っている我々は、
まずは歴史を学び、そこから試行錯誤で大局観を生み出していくのですが、
歴史は規則的に繰り返すのではなく、形を変えて繰り返す(つまり韻を踏む)ことに注意できれば、
さらに未来予測の精度は高まるのではないでしょうか。
# by winchesterpark | 2009-06-27 19:33 | 金融日記